フッ化物の基礎知識
フッ化物とは?
フッ化物とは、フッ素(F)と他の元素が結合した化合物のことを指します
まず、フッ素(F)は天然に存在する元素の1つで、人体において必須な微量元素として人間の体内ではカルシウム・カリウム・ナトリウム・マグネシウム・鉄に次いでその含有量が多いとされています
また、歯や骨を作る石灰化には欠かせない物質です
フッ素は陰イオンあるいは負に帯電しているすべてのイオンのうち、化学的に最も反応が高いため自然界では単一の元素として存在することはありません
一般的には
・NaF:フッ化ナトリウム
・CaF₂:フッ化カルシウム
・Na₃AlF₆:ヘキサフルオロアルミン酸ナトリウム
が知られているかと思います
フッ素は、日常的に飲料水や食品などから摂取されています
日本では、水道水へのフッ化物添加(水道水フロリデーション)が行われていないため、水道水からでなくお茶や海産物からのフッ化物摂取がほとんどです
特に海産物中には高濃度フッ化物が含まれています
ただし、食品中のフッ化物の体内吸収率は低いとされています
飲食物として摂取されたフッ化物は、胃と腸管から吸収されます
消化管から吸収されたフッ化物は血液中に現れその後、主に尿や汗として排泄されます
排泄されなかったフッ化物は硬組織などの骨格系に沈着します
しかし、骨格系に沈着したフッ化物も固定されたものではなく、飲食物のフッ化物イオン濃度(フッ素濃度)が低下すると再び血中へと移動します
1日に必要なフッ化物は、成人で3〜4mg(体重1kgあたり0.05mg)です
毎日の飲食からとる量では、むし歯を予防するのに必要な量が不足しがちです
そこで、何らかの形でフッ化物を補う必要があるのです

フッ化物の効果
フッ化物には、むし歯を予防する効果があります
具体的には
・再石灰化促進効果
・プラーク細菌による酸産生の抑制効果
が挙げられます
フッ化物による再石灰化作用は、イオン化して溶解しているフッ素の濃度やその滞留時間が重要です
しかし、フッ化物は時間と共に酸の作用で失われてしまいます
そのためできるだけ毎日(または定期的)にフッ化物を使用することが推奨されています
歯磨き粉に含まれるフッ化物
歯磨き粉などの成分表示に
・モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)
・フッ化ナトリウム(NaF)
・フッ化第一スズ(SnF2)
いずれかが含まれていれば、フッ化物配合歯磨剤です
薬用歯みがき類製造販売承認基準によりフッ化物イオン濃度は1,500ppmF以下に定められており、1,450ppmF程度までのものが販売されています
フッ化物イオン濃度としては1,450ppmF・950ppmFの製品が多く、子ども向けに500ppmF・100ppmFの製品も販売されています
歯科診療におけるフッ化物歯面塗布
歯医者で行われるフッ化物塗布の方法は
・綿球、綿棒による塗布
・トレーを使用した塗布
・イオン導入器を使用した集団塗布
の方法があります
一般の歯科医院では「綿球、綿棒による塗布」が主流となっています
私が勤めている歯科医院では患者さんに合わせて
1g中 フッ化ナトリウム 20mg(フッ化物イオン濃度:9000ppm)のものを1回につき1〜2mLを年1〜2回塗布しています
フッ化物の毒性
フッ化物を誤って使用した場合は、過剰摂取となり短時間に急性の中毒症状が現れます
さらに非常に高濃度のものを長期間摂取した場合は、慢性中毒として硬組織に関する疾患
・歯のフッ素症
・骨硬化症
を発症し、腎臓や甲状腺に障害が現れたり発育の抑制が見られます
急性中毒
フッ化物の急性中毒量は、体重1kgあたりフッ化物の量2mgとなっています
急性症状として
・悪心
・嘔吐
・流涎
がみられますが、数時間後には消失します
症状が進んでしまった場合は、
・腹痛
・下痢
・全身の脱力感
・麻痺または痙攣
・呼吸困難
が起こる場合があります
こういった急性中毒症状は、計算上、幼児がフッ化物配合歯磨剤を1本丸々飲み込んでしまった場合におきます
急性中毒症状が起きた場合の処置
①症状がフッ化物によるものか確認
②フッ化物が原因だった場合は、使用量を確認
②−1 使用量が少量だった場合、経口でカルシウム剤(牛乳でも可)を与える
②−2 使用量が多量だった場合、病院を受診し胃洗浄などの処置を行う
慢性中毒
慢性中毒は、過剰なフッ化物(フッ素)を長い間摂取し続けた場合に生じます
慢性中毒として
・フッ素症(半状歯)
・骨硬化症
・骨多孔症
・甲状腺、腎機能障害
があります
発症するフッ素の量としては、毎日0.1mg/体重という量です
10キロの子だと1mgのフッ素を毎日摂取する場合は慢性中毒量です
500ppmの歯磨き粉1gには0.5mgのフッ素が含まれていますので、毎日2g使った場合は中毒量を超えています
また、食品にもフッ化物(フッ素)は配合されているものも考慮しましょう
もし、誤った使用方法でフッ化物配合歯磨き粉を使ってしまった方は今日から気をつければ大丈夫です
歯のフッ素症になるにはかなりの期間(0−8歳の歯の形成期に毎日摂取)が必要です
そのため今日から気をつければ長期的には許容量内に収まる場合がほとんどです
フッ素症にもレベルがあり、上記の量で生じるのは最も軽度なもので、一般の方には分からないレベルだと言われています
骨硬化症にはさらにフッ素の量が必要なので、フッ素入り歯磨き粉が原因で生じることはないでしょう
まとめ
フッ化物は歯面強化を促し、むし歯予防を目的としています
しかし、フッ化物を塗ったら(使用したら)むし歯にならないわけではありません
効果を継続させるには定期的なフッ化物の取り込みが不可欠です
必ず使用方法・容量を守り、自宅でのセルフケアと歯科医院でのメインテナンスでお口の健康に努めましょう
参考文献
・厚生労働省:e-ヘルスネット
・日本歯科医師会:フッ化物ー歯とお口のことなら何でもわかるテーマパーク8020